鶏岩の卵(鶏石) (安曽神社) |
安曽神社の幟旗の写真 |
石器の砥石?と思われる石 |
安曽神社の鶏石(鶏岩の卵)の案内板の写真です。
(「中」の石の高さ「7寸6分」は他の資料では「7寸5分」、また「鶏岩宇宙に輝く」は他の資料では「鶏岩」ではなく「鶏石」です。)
上田中学校『郷土の伝説』(昭和9 1934)では、岩の名前は「鳥居岩」「雄鶏岩」「雌鶏岩」となっていました。「鳥居岩」から「鶏岩」に変化したとも考えられます。「鳥居岩」の由来は、鳥居に見立てられる岩だったか、または、磐座(いわくら)として祀り、前に鳥居を建てていたのかもしれません。
鶏岩の話は『信州の鎌倉 塩田平の民話』(1993)にもありますが、「鳥居岩」を「鶏岩」に変更した以外は、ほぼ同じ内容・文章です。『小県郡史』(1922)、『小県郡民譚集』(1933)、『信州の鎌倉 塩田 その文化財と史跡』(1967)、『ふるさと塩田 村々の歴史』(1987,1988)にはありませんでした。(吉沢城、大六の欅の話はありました。)もしかしたら、非常に狭い範囲の伝承か、または昭和に入って成立した、比較的新しい話である可能性も。
(『小県郡民譚集』には小山真夫の母(柳沢村出身)が伝えた塩田平の話も掲載されていて、もしも地元でよく知られていた話なら、無いのはやや不自然。)
「鶏石」の名前は明治時代にはあったと思われますが、鶏岩と結び付いていたかは明確ではないです。石の箱には「神寶石」とあります。『郷土の伝説』の古文書からの引用と思われる文には「寶石參顆鷄卵形」とあります。
ちなみに、鶏石2個は(または3個共)元々は陽石だったのかも。境内に男石社があり、陽石が2個(1個は石棒?)祀られています。また、石垣の中に石器の研磨痕?と思われる溝が数本ある石(約50cm×50cm×40cm)があります。(『しおだ町報』紙上講座 昭和38年10月5日より)
上田中学校郷土研究部『郷土の伝説』(昭和9年3月) 54頁より
鳥居岩
東鹽田村大字古安曾の安曾岡山に鳥居岩といふ岩がある。此の岩は雄鷄岩と雌鷄岩とより成り、その大さは小山程もある。岩上に老松が繁つて居る。
一、説昔此の雌鷄岩が三つの卵を産んだ。此の卵は普通の鷄卵とは大いにその成分が違ふ。即ち固い石の卵であつた。そして此の三つの卵は現存石神區の鄕社安曾神社の寶石となつて居る。
寶 石 參 顆 鷄 卵 形
周 圍 長 サ
大 二尺 八寸
中 一尺八寸五分 七寸五分
小 一尺八寸 六寸五分
嘗て、神川王長同一といふ人が此の鷄石を讃美して曰く、「大いなる哉安曾の社、鷄石宇宙に輝く。」と。
二、大永の昔、鳥居岩の西に聳ゆる山上に城があつて、芳澤民部之介光義が城主の頃であつた。
天下の英雄武田信玄が信濃國に侵入して、この芳澤城を攻めた。蛇にねらはれた蛙同樣、芳澤城は武田の精鋭に壓せられて、今にも落城せんばかりになつた。其の時俄然例の雄鷄岩が雷でも落ちる樣な大きな聲で「コケコツコー」と鳴き叫んだ。これには流石の武田勢も驚き、芳澤城は如何なる恐ろしい城か測り知れぬと言つて、どん/\退却した。しかし芳澤は武田の敵ではなかつた。後武田は武力に訴へず。智將山本勘助に命じて、口術で芳澤民部之介光義を納得させて遂に味方に引入れたといふ事である。
三、天保年間の事、我が石神の庄屋であつた人が、鳥居岩の周圍の岩が庭石に適するから運ばうとした。大きな岩であるから大勢の人を賴んだ。しかし運ぶには大層重さうであつた。故に谷へ落して綱で引張つて行きませうとて、岩を谷へ落した。一方庄屋の家では、庭石運びに御馳走しようとそばをうでてゐた。その中へ一人息子が轉び込んで死んでしまつた。その時刻は殆んど岩を谷へ落した時刻と同時刻だつたと。それで村民は鳥居岩を運ぶ時は必ず人が死ぬと言つて居る。
同書36頁より
地頭の木
文治元年乙己の頃東塩田村石神地方に吉澤民部介第綱といふものあり城山の麓に城を築きて之れに居り地方を治む。第綱源賴朝の命をうけ今の鄕社安曾神社を修理し地を大六に相して此處に欅の木を植えたりと其子第廣父の遺業を繼承し大いに保護を加へたるものなり是に關する記録は菅原大左近秘藏せしが延寶中火災に罹りて燒失したりといふ樹下に大六天の神を祀る。
(※『昭和五年 長野県史蹟名勝天然紀念物調査報告 第拾壹輯』 八木貞助「小縣郡東鹽田村通稱「地頭木」に就て」「七、傳説」とほぼ同文。『小県郡史 余編』では「菅原大左近」は「春日右近正信」)
同書98頁より
片葉葦
今より凡そ三百年以前、小縣郡本鹽田村古安曾に在る城山の城主古澤民部之助が此の城の裾野の河原にありし葦が邪魔であると言つて刀劔で切つた。其の時以來此の裾野に在る部落古澤(石神區)だけの葦の葉が片方だけしか生じない。
(※本鹽田村は東鹽田村。古澤民部之助、部落古澤は吉澤か? 『小県郡史 余編』では片葉の由来話は無く「芳澤の名盖しこれ(※片葉葭)に因るか」と書いています。)