2024年8月25日日曜日

金井の雨乞い地蔵尊

金井の雨乞い地蔵尊(神科村誌)
金井の雨乞い地蔵尊(神科村誌 439頁)

『神科村誌』(昭和43 1968)に、戦争中の雨乞いの記事がありました。(昭和17年8月)
文章と写真撮影は、編集顧問 清水利雄氏。(「神科村誌あんない / 六 執筆礼言 / ○清水編集顧問には、身を以って、第一章と「部落めぐり」を書いていただき、始めと終りをひき締めた。」)

雨乞いにいろいろなルール設定(難易度設計?)があって、興味深いです。(「出座したが最後雨が降るまで必ず引きこめない。もしこのことに反すれば、より以上の災害が来る」「この地蔵尊の乾かざるよう休みなく水をぶっかける。もし乾く事があればご利益解消という」)
寺社はあまり関係しないのか、僧侶や神職についての記述はありません。
真剣だったとは思いますが、お酒も入って、楽しみの面もあったのかも。

雨乞いの加虐性については曖昧な印象。(本質的にスペクトラム?)
地蔵(石の坐像)を運ぶとき、はしごを輿にして上に載せて「結わいつける」のは、落とさないように固定する目的だと思いますが、見た目には、縄で縛って引き回すようにも見えるかも。
水中に入れるのは、水をかけ続けることの延長であり、同時に、面倒だから沈めてしまえ、という気持ちにもなったかも…

『神科村誌』(昭和43 1968) 437頁
(十二 部落めぐり 山口 金井 蛇沢)
 地区の雨乞い
 上田盆地は全国的に有名な雨量の少ない所である。このため用水池や用水堰の発達もまた有名である。しかし絶対雨量の少ないこの地方では、万駄《*だん》たきなどの雨乞いも各地区毎に数多く行われている。神科地区でも特に水に恵まれない上田地区の雨乞いが有名で、山口の千駄たきと特に金井の雨乞い地蔵の行事はものすごかった。

●山口の千駄たき
 消防団が主体になって各家からも出た。役員は朝から出て早くから用意した。まず大きな四本の木を柱にくみ、まん中にしんを立てた。柱と柱の間には横木を何本となく渡してその間には燃え易いそだ木を一ぱいさしこむ。あっちからもこっちからも持ちはこばれた枝で山のよう。
 やがてころを見はからって火がつけられる、と、めりめりと焼けた空にほのほが立ちあがる。太郎山の中腹に天をこがす一大火柱の出現――村じゅうあげての願いをこめて。焼け残った柱は、希望者に分けるのが例であった。

●金井の雨乞い
 雨乞い地蔵尊は鎮守草創《**くさわけ》神社前の古い道ばたの吹きさらしの小堂の中に安置されている。『元文四年 六十六部供養』と銘が刻まれている。最近では大正十三、十四年と昭和十七年との二回が記録されている。特に昭和十七年の八月に直接この行事を写真にしようと出向してその真剣さには背をうたれた。
 まず区集会を開いて雨乞いまで 持ちこむかと熟議をこらす。出座したが最後雨が降るまで必ず引きこめない。もしこのことに反すれば、より以上の災害が来る。そこで万一の場合には女子も出動する相談づくで決定となる。何しろ弥吾平の桑の葉が日に日にしおれて来る。村の唯一の丘堰にも水一滴も来ない。こうした天空を見上げながら、区集会全員一致で決定となると、
 第一に矢出沢川金井橋より百メートル下位の淵のところをせきとめて水をたたえる。その中央に土俵を積み重ねて地蔵尊の座をつくる。準備完了と共に雨乞い地蔵尊をはしごに結わいつける。鏤《しよう》に太鼓にあわせて『雨降らせ給え』とさけびながら行列をくんで先の台座の上に安置する。そしてこの地蔵尊の乾かざるよう休みなく水をぶっかける。もし乾く事があればご利益《りやく》解消という。村じゅう一戸一名ずつ出動した男子が、酒をのみのみ、かわるがわる夜、昼なく、鏤と太鼓と「雨降らせ給え」の祈りに合せて、水を手でぶっかける。「いまだかつて三日にして降らざる事なし」という信念のもとに――。
 実に真剣そのものである。昭和十七年太平洋戦争熾烈《**しれつ》にして物資いよいよ窮迫というこの時、集まった酒五斗五升という。もっとも、この行事の最中には、遠く近くあちこちから、酒一升をつるしての陣中見舞と応援の人達が多かった。この昭和十七年のときも三日日に確かに夕立が来た。区民全員欣喜雀躍、地蔵尊をかつぎ帰る行列は実にこうごうしいかぎりであった。

(※「鏤」は鉦?)

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